杜氏・蔵日記

ほとんどの人が知らない麹の世界

・この知識はこんな方にオススメ

  • そもそも麹ってどんなものか知らない方
  • 麹の歴史を知りたい方
  • 世界の麹と日本の麹の違いとは

目次

  1. 麹菌の世界
  2. 種こうじ
  3. 麹の世界

麹菌の世界

麹菌はカビの一種です。カビは育成に酸素を必要とし、一般的には液体より湿った食べ物によく生え、餅や蒸した米などはカビにとって一番の好物となっています。カビには、餅の生える青い色をしたペニシリウムと呼ばれるアオカビ、また黒色をしたクロカビ、そしてチーズに着生しているアオカビなど、私たちのまわりにたくさんみられます。

本みりんに使われる麹菌の形状は黒カビに似ていますが、その色は鮮やかな黄緑色をしたもので、黄麹菌または、アスペルギルス・オリゼーと呼ばれるものです。

今から100年ほど前に、東京医学校(現東京大学医学部)の教師として赴任していたヘルマン・アールブルグによって命名されたものです。ただ日本の麹菌は大昔から酒屋の麹に生えていたものであり、それら実際には単一の菌ではなく、複数の菌からなる菌株、菌叢であったことから、発見当時の観察技術背は見るたびに姿が違うといったことになっていました。

現在、本みりんの醸造に使われている麹菌も決して単一の菌ではなく、それぞれの性格の大体のところは似ているとしても、その細かい姿、その機能はいろいろ異なる多数の菌株の大群から成り立っており、有益、安全な菌群であります。

また麹菌は自然界だけで生まれたものではなく、人間の目的にそってつくりあげられてきた非常に珍しいカビの大群なのです。それを物語る例としては、非常に似た姿、色をした同じような麹菌であるにもかかわらず、

日本酒の麹として育ってきた麹菌には米のデンプンを分解する酵素が非常に強いのに対し、醤油の麹に生えている麹菌は大豆のタンパク質を分解する酵素を極めて強力に出す、といった麹の利用目的にそった能力を持っている事実をあげることができましょう。

種麹

世界に類をみない優れた麹菌の一大菌群である日本の麹は、私たちが祖先から引き継いできた貴重な財産であり、技術の成果であります。とりわけ種麹を用いる麹の製法については優れた工夫がなされています。

種麹とは、特別な方法で麹菌を純粋に培養し、胞子をたくさんつくらせた麹そのものか、あるいは麹菌の胞子だけを取り出して、普段から保存しておき、こうじの製造時に「種」として蒸したうるち米に加える技術のことを言います。種麹を使うことによって、麹の製造は自然に任せるよりも、望ましい麹菌だけを、しかも確実に生えさせることができるようになったのでした。

この種麹を利用して醸造物を造る工夫は、遠く300年前には京都の酒屋においては行われていたと伝えられています。また奈良時代の「令集解」の未醤(現在の味噌や醤油に非常に似た物)の項目の中には、「麹子米」という極めてわずかな量の米が原料の一つにあげられている記述があり、これはこの麹子米が麹の製造にだけ使われる米であるとみられるところから、種麹は奈良時代から行われていた手法と考えられます。

種麹は、いわば日本酒なり、本みりんの製造のための純粋な麹菌であり、この菌の純粋性を保つ工夫には古代からの極めて貴重な物質であった灰が大きな役割をはたしていたのでした。灰は陶器のうわ薬や染色などの工芸や各種食品にも広く使われていました。

蒸米に灰をかけて種麹をつくると、麹菌はよく生えますが、一方、アルカリに弱い色々な雑菌は生えることができずに死滅してしまいます。つまり、灰はこのように有害菌の繁殖を防いで麹菌のみを純粋に生やす役割を果たしているのです。

種麹の手法は全く日本独自の技術です。今日の発酵工業の常套手段となっている種麹の技法は、私たち日本人の先人によるおおいなる発明であり、私たちが受け継いだかけがいのない技術的財産なのです。

麹の世界

麹菌と米を使って作るのが米麹です。発酵技術の面からこの麹をみてみますと、デンプンを糖化するために西洋での麦芽を使う技術と好対照をなす東洋の独自な技術である、と言えましょう。特に中国・朝鮮・日本などの東南アジア諸国では、酒だけでなく、醤油や醤を元祖とする味噌など麹を利用した発酵調味料が多く生まれています。日本の大宝律令の中には浜納豆である、くき、醤、味醤の名を見ることができます。

同じようにカビを使ってきた中国と日本の麹を比較してみますと、中国では穀物のままや餅のように固めたものにカビを生えさせたものを麹と呼び、日本では加牟多知、すなわちカビタチと呼んでいました。中国で使われているカビは餅型の麹であり、生のまま穀物を粗く砕いたものを水でこね、自然にカビの生えてくるのを待つといった方法でつくる麹であり、これを餅麹と呼び主にケカビやクモノスカビでした。

一方、日本では餅麹を使った文献などは一切見当たらず、原料を蒸煮にしてつくる米のバラ麹と呼ばれるものであり、黄麹菌が主体でした。このバラ麹系の麹は中国北部から朝鮮半島にかけて、ほとんど見かけないものであり、わずか中国南部、そして台湾の辺境で見られるだけです。

カビを利用した酒造りは明らかに大陸から日本に伝えられたのにもかかわらず、日本だけがアルコール発酵力を持たない黄麹菌を使用しています。具体的には、古くから、中国の東北地方の紹興酒、高梁酒には餅麹が、そして朝鮮の焼酒、濁酒には、きよくしが、さらに台湾、中国南部の紅酒には紅麹が、沖縄の泡盛には黒麹菌が、そして日本酒、本みりんには大陸と全く異なるバラ麹、つまり黄麹菌が使われたのでした。

なぜ日本だけが大陸と異なる工事を使用したかに関しては、乾燥した大陸から高温多湿の日本に伝えられたカビが日本の環境に適応して繁殖すべく作り上げあれた、と考えられています。その結果、酒の作り方も大陸と違う事となり、日本特有の酒造り、独自の麹造りが生まれてきたのだと考えられています。

穀物を原材料とする酒造りでは、デンプンをまず麹の酵素の働きで糖化し、その糖分を酵母の作用でアルコールにしていくことから、糖化の過程こそ酒造りの出発点であり、酒造りの中心といえましょう。もちろん日本の醸造物である、清酒、醤油、味噌、本みりんの全ては麹造りが基本となっております。原料成分の分解や風味の醸成は、麹の働きを抜いては決して考えられないのです。

清酒製造で古くから、一麹、二酛、三造りと言われ、酵母によるアルコール発酵が主工程である清酒でさえ、清酒の風味の形成に大きく関与する麹が一番重要とされています。いわんや本みりんは酵母による発酵過程がなく、麹の持つ酵素の力だけ利用して糖化・熟成されるものですから、麹の持つ役割は一層重要であり、その品質は麹の内容に支配されていると言っても過言ではありません。その麹の内容を決定するものは麹菌の性質であり、製麹の条件なのです。

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